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和歌山地方裁判所 昭和43年(行ウ)3号 判決

和歌山県西牟妻郡白浜町三、三四〇-二六

原告

尾崎茂

右訴訟代理人弁護士

平井勝也

中谷鉄也

河村公夫

吉田一雄

田辺市上屋敷町一一四番地

被告

田辺税務署長

森本敏彦

右指定代理人

井上郁夫

永井充

中谷透

三上耕一

鬼束美彦

上田隆男

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和四一年九月二九日付でなした、原告の昭和三九年度の所得税額を二三七万五、四五〇円とする更正処分は、これを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、アパート経営および不動産売買・仲介を業とする者であるが、昭和四〇年三月一五日、昭和三九年度分の所得税につき、総所得金額を一〇二万一、八一〇円(内訳は不動産所得のみである。)とする確定申告をなした。

2  ところが、被告は、右申告にかかる不動産所得以外に、譲渡所得五九七万六、四四二円があるとして、総所得金額を六九九万八、二五二円としたうえ、昭和四一年九月二九日付で、原告に対し、昭和三九年度分の原告の所得税額を二三七万五、四五〇円とする更正処分(以下、本件更正処分という。)重加算税額を七二万八、四〇〇円とする重加算税の賦課決定処分、(以下、本件賦課決定処分という。)をそれぞれなした。

3  そこで、原告は、昭和四一年一〇月二八日被告に対し、本件更正処分および賦課決定処分について異議申立てをなしたところ、同日、被告は、これを審査請求として取り扱うことを適当と認め、かつ原告もこれに同意したので、大阪国税局長に対し、審査請求がされたものとみなされた。

しかして、大阪国税局長は、昭和四三年三月二五日右審査請求のうち、本件更正処分については棄却し、賦課決定処分については右処分を取消す旨の裁決をなした。

しかしながら、本件更正処分は事業所得を譲渡所得と認定した点、および控除すべき経費を認定しなかった点において違法であり、取消しを免れない。

二  請求原因に対する認否

原告が不動産売買・仲介を業とする者であることは否認するが、その余の事実は認める。

三  抗弁

1  総所得金額について

(一) 不動産所得金額

これは、原告の確定申告のとおり一〇二万一、八一〇円である。

(二) 譲渡所得金額

(1) 被告が本件更正処分において原告の譲渡所得金額を五九七万六、四四二円と認定した理由は、次のとおりである。

〈1〉 収入金額

原告は、昭和三九年三月五日訴外中西一馬、同季束硯(以下、三名を原告らという。)との共有にかかる、別紙目録一記載の土地を訴外株式会社奥村組に、同目録二記載の土地を訴外奥村機械製作株式会社に合計六、八〇五万八、〇〇〇円で譲渡した(以下、右両地を本件土地という。)。

〈2〉 購入金額

原告らは、訴外大頭基宏から本件土地を四、五〇〇万円で購入した。

〈3〉 経費

(A) まず、本件土地の取得および譲渡に関する経費として、原告が主張した項目は、次のとおりである。

(a) 土地取得にかかる費用

(イ) 立退料 二九万円

(ロ) 測量費 三万八、五〇〇円

(ハ) 登録税その他 七四万〇、四〇〇円

(ニ) 仲介料

丸山晃 三五万円

林商店 三五万円

吉次彦士 六五万円

高岡不動産 七五万円

(ホ) 不動産取得税 二〇万九、二六〇円

合計 三三七万八、一六〇円

(b) 保有期間にかかる費用

(イ) 台風後片付費および維持管理費

一五万五、〇〇〇円

同右 四〇万円

(ロ) 台風後片付費 八万五、五〇〇円

(ハ) 運搬費 四万五、〇〇〇円

(ニ) 固定資産税 二七万五、一〇二円

(ホ) 電話料(山中氏) 一万七、一八三円

合計 九七万七、七八五円

(c) 譲渡にかかる費用

(イ) 交際接待費 七五万二、七四四円

(ロ) 公租公課 二万円

(ハ) 司法書士手数料 四、一四〇円

(ニ) 手数料(古屋辰夫) 一〇万円

(ホ) 立退料(山中為樹) 八〇万円

合計 一六七万六、八八四円

(d) その他

(イ) 売買契約印紙代 一万円

(ロ) 山中氏電気料金 一、三九四円

(ハ) 固定資産税 六万一、七二〇円

合計 七万三、一一四円

(e) 支払利息

昭和三九年四月一四日支払 四五〇万円

右同 四〇万円

右同 八二万一、二五〇円

右同 一、〇九五万〇、七五〇円

合計 一、六六七万二、〇〇〇円

(B) しかしながら、本件土地譲渡による所得は、譲渡所得であり、右項目中の(a)+(c)-〔(c)の(イ)×五〇パーセント〕=四六七万八、六七二円については、経費と認められるので、購入金額四、五〇〇万円とともに前記収入金額より控除すべきものであるが、右以外の項目は、およそ経費とは認められないのである。

(C) そこで、被告は、本件更正処分において、右方法により控除した差額一、八三七万九、三二八円について、原告の共有持分は、ほかの二名と平等なものと認められるので、右金額に三分の一を乗じ、さらに旧所得税法(昭和四〇年三月三一日法律第三三号による改正前の所得税法をいう。以下同じ。)九条の規定により特別控除額一五万円を控除し、前叙のとおり、原告の本件土地の譲渡所得を五九七万六、四四二円と認定した。

(2) しかし、被告が本件更正処分に際し、経費と認定したものをさらに検討したところ、一部に過誤のあることが判明した。結局、原告の譲渡所得金額は六八一万九、七七六円となり、その認定理由は、次のとおりである。

〈1〉 収入金額 六、八〇五万八、〇〇〇円(前記(1)〈1〉)

〈2〉 取得価額

購入金額 四、五〇〇円(前記(2)〈2〉)

測量費(前記(a)の(ロ)) 三万八、五〇〇円

登録税その他((a)の(ハ)) 七四万〇、四〇〇円

不動産取得税((a)の(ホ)) 二〇万九、二六〇円

合計 四、五九八万八、一六〇円

〈3〉 譲渡に関する経費

仲介料(高岡不動産)((a)の(ニ))七五万円

交際接待費((c)の(イ)×1/2)三七万六、三七二円

公租公課((c)の(ロ)) 二万円

司法書士手数料((c)の(ハ)) 四、一四〇円

売買契約印紙代((d)の(イ)) 一万円

合計 一一六万〇、五一二円

したがって、原告らが本件土地を譲渡して得た所得は、〈1〉の収入金額から〈2〉の取得価額および〈3〉の譲渡に関する経費を控除した金額である。そこで、右金額に原告の共有持分三分の一を乗じ、さらに前記旧所得税法の規定による特別控除額一五万円を控除して計算すると、原告の譲渡所得金額は、六八一万九、七七六円となる。その算式を示せば、次のとおりである。

68,058,000円-45,988,160円-1,160,512円=20,909,328円

〈省略〉

(三) 以上のとおり、原告の昭和三九年度の総所得金額は、本件更正処分において六九九万八、二五二円と認定したが、実際には七八四万一、五八六円となるのであるから、本件更正処分の認定所得金額を超えることは明らかである。

2  所得税額について

そこで、本件更正処分における認定処得金額に基づき、原告が、納付すべき所得税額の計算過程を示すと、次のとおりとなる。

〈1〉 総所得金額 六九九万八、二五二円

〈2〉 所得控除額 三五万七、二八〇円

(内訳)社会保険料控除 三万五、三八〇円

生命保険料控除 三万四、四〇〇円

扶養控除 一七万円

基礎控除 一一万七、五〇〇円

〈3〉 課税総所得金額(〈1〉-〈2〉但一〇〇円未満切捨) 六六四万〇、九〇〇円

〈4〉 〈3〉に対する税額 二四六万八、四五〇円

〈5〉 予定納税額 四万円

(内訳)一期 二万円 二期 二万円

〈6〉 確定申告によって納付した税額 五万三、〇〇〇円

〈7〉 本件更正処分によって納付すべき税額(〈4〉-〈5〉-〈6〉) 二三七万五、四五〇円

ところで、前叙のとおり原告の実際の譲渡所得は六八一万九、七七六円であり、総所得金額は七八四万一、五八六円であるから、これを基礎として算定すれば、所得税額が本件更正処分における二三七万五、四五〇円を超えることは明らかである。被告がなした本件更正処分は、むしろ低きに失したのであり、何ら違法はない。

四  抗弁に対する認否および原告の主張

1  抗弁に対する認否

抗弁のうち、(一)、(二)(1)〈1〉、〈2〉、〈3〉(A)(c)は認めるが、その余は否認する。

同2のうち、〈1〉〈3〉〈4〉〈7〉は否認する。

2  原告の主張

(一) 原告は、古くから和歌山県西牟妻郡白浜町においてアパートを経営する一方、次のとおり昭和三四、三五年頃から不動産売買・仲介業を営む者であり、本件土地の買受けに際しても、右事業の一環として、当初からその転売による利益の取得を目的として、代金四、五〇〇万円を訴外鳥清商事株式会社より借入れ、これを代金にあてたのであり、右土地の転売による所得は、当然事業所得に該当するものである。すなわち、原告は、昭和三四年一〇月頃、白浜町に存在した大阪郵政局所有の白浜逓信保養所の土地建物につき指名入札を受け得るよう運動し、これを自己名義に落札し、白浜町白浜温泉の白雲閣経営者訴外竹内茂子に転売する準備をし、右入札を通じ、郵政省の指名業者となった。しかし、右計画は、他業者の落札により不幸にして失敗した。また、和歌山繊維運送株式会社から老人ホームの敷地を郵政省より払下げてもらいたいとの依頼を受け、その折衝をした。

原告は、昭和三五年度には参議院議員の訴外前田佳都男の紹介で、南海電気鉄道株式会社の和歌山県下における不動産売買についての指名業者となり、遂次不動産仲介業者としての地位を築いていった。

さらに、原告は、同年白浜町内の温泉を堀さくしてその周囲の土地を買収し、これを温泉付地として売却することを計画し、同年八月一日県知事に対し、白浜町三、一八七番地の一において堀さく許可申請をしたが、周囲への影響が大きいとの理由で不幸にして実現しなかった。

原告は、昭和三九年より前記前田佳都男の紹介で、東亜港湾工業株式会社の指名業者となり、その依頼により土地の買収および売却を開始した。一方では、白浜町椿一、〇五六番地在住の訴外吉見仁太郎の依頼により同郡日置川町の土地約三万坪におよぶ売買の仲介をしたり、あるいは朝日殖産株式会社に対し、大阪市阿倍野区文の里の士地を売却するなどした。その他、原告において売買の仲介をした数は枚挙にいとまがない。

(二) したがって、本件土地の譲渡による所得は、事業所得と認められるから、本件土地取得のための借入金に対する支払利息ならびに維持管理費等は、すべて経費に算入されるべきものである。抗弁1の(二)(1)〈3〉(A)の(a)ないし(c)の項目に掲げる金額は、すべて原告において現実に支出しているのであり、さらにこのほかに仲介手数料として八〇万円支出している。これらは、すべて経費として取り扱われるべきものである。

そうすると、経費は合計二、三五七万七、九四三円となり、これに購入金額四、五〇〇万円を加えれば六、八五七万七、九四三円となって、売却価額(収入金額)六、八〇五万八、〇〇〇円との差額は五一万九、九四三円の欠損となる。これに原告の共有持分三分の一を乗ずると、一七万三、三一四円の欠損となる。よって、昭和三九年度においては、原告の事業所得は、存在しないのである。

(三) 仮りに、本件土地譲渡による所得が被告の主張するように譲渡所得であるとしても、前記原告主張の経費項目は、すべて当然に控除されるべきものであるところ、前記算定上明らかなとおり欠損金を計上している以上、譲渡所得は存在しない。

ところで、被告は、譲渡所得の算定にあたり本件土地購入の取得後譲渡までの間に生じた本件土地購入のための支払利息(項目(c))を経費として認めていないが、これは実質課税の原則に違反するものである。けだし、もしこの算入を認めないとすれば、実質所得がないにもかかわらず、これがあるとの仮定のもとに課税するという矛盾が生ずるからである。

また、右支払利息は、本件土地譲渡の際、鳥清商事株式会社に支払ったのであるから、本来同社の所得としてこれを計上させ、これに対して法人税を課税すべきものである。一方において法人税を課税し、他方において利息の支払いなしと認定して経費否認をし、これに事業所得もしくは譲渡所得を課税することは二重課税となり、この点からも違法である。

五  原告の主張に対する認否および反論等

(一)  原告の主張に対する認否

原告の主張(一)のうち、原告が古くから白浜町においてアパートを経営していたことは認めるが、原告が本件係争年中において、郵政省、南海電気鉄道株式会社および東亜港湾工業株式会社の指名業者となったことは否認し、その余は知らない。同(二)、(三)は否認する。

(二)  反論等

(1) 原告は、本件土地の譲渡による所得は事業所得であると主張する。ところで、旧所得税法九条一項八号にいう資産の譲渡による所得のうち、「営利を目的とする継続的行為により生じた所得」に該当するか否かの判断にあたっては昭和四〇年二月二日付国税庁長官通達にも示されているように、

〈1〉 譲渡人の既往における資産の売買回数、数量または金額および売買の相手方

〈2〉 売買のための資金繰り

〈3〉 売買を行なうための施設、売買にあたっての広告・宣伝等の方法

〈4〉 当該譲渡にかかる資産の取得および保有の状況等の諸事情を総合すべきものである。

そこで右基準に照らして、本件を検討するに、

〈1〉 原告が昭和三四年から係争年度(昭和三九年)までの間に、資産の譲渡を行なったのは本件の一回のみであり、その相手方は奥村機械製作株式会社ほか一名にすぎないこと、

〈2〉 資産を取得するための資金の借入れは、本件の一回限りであって、定期的かつ大量の資金借入れといった営利目的の継続的資産の譲渡を窺わせる資金繰りはないこと、

〈3〉 また、原告は、不動産業者としての事業経営に必要な人物・物的施設を有しておらず、本件土地の譲渡にあたっても、宣伝・広告等をした事実はないこと、

〈4〉 さらに、本件土地を取得した後、造成等の加工をすることなく、取得時の原状のままで譲渡していること、

〈5〉 原告が被告に提出した昭和三八年度分ないし昭和四一年度分の所得税確定申告書には、不動産所得についてのみ記載があり、事業所得については、所得金額の「種目」、「所得を生ずる場所」、「収入金額」、「必要経費」の各欄に全く記載がないこと、

〈6〉 また、原告は、昭和三九年に、発起人の一人となって設立した東武木材興業株式会社(本店所在地東京都江東区深川木場、事業種目一般建築材および箱材の仕入販売)の代表取締役に就任しており、不動産売買・仲介を業として行なう余裕は到底なかったものと推認されること、

〈7〉 しかも、原告は、不動産売買・仲介を業として行なうために必要な宅地建物取引業法(昭和二七年六月一〇日法律第一七六号)に定める登録ないし知事の免許(同法三、四条)、取引主任者の設置(同法一一条の二)等の手続をしていないこと、

〈8〉 本件土地の共有者である中西一馬および李東硯に対する本件土地の譲渡による所得の課税は、譲渡所得として異議なく課税されていること、

以上の事実を総合して判断すると、本件土地の譲渡は、「営利を目的として継続的に原告が事業として不動産の売買・斡旋をなし行なわれたもの」とは認められない。

(2) 原告が経費として控除されるべきであると主張する前記項目中、被告が相当と認めた部分を除くその余のものについてみると、(a)の(イ)、(二)のうち高岡不動産以外のもの、(c)の(二)、(ホ)については、原告は、これを経費として現実に支出したと主張するが、そのような事実は認められず、その余の項目は、前叙のとおり本件土地の取得ならびに譲渡に関する経費とは認められない。

(3) 原告は、本件土地取得のために借入れた資金に対する利息(前記項目c)は経費として算入すべきであると主張する。

ところで、旧所得税法九条一項八号によれば、譲渡所得は、「総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額」である。ここに譲渡に関する経費とは、譲渡のための周旋料、登録料、借家人を立ち退かせるため支払われる立退料等のような資産の譲渡を実現するための直接必要な支出を意味し、当該資産を取得するための借入金の利息または修繕費その他当該資産の維持管理に要する経費は含まれないものと解すべきである。原告主張のように、右借入金利息も経費に含まれると解するならば、他から資金を借り入れることなく、自己資金で資産を取得した者と、借入金によって資産を取得した者との間に租税負担上の差異を生ずることとなり、明らかに不公平かつ不合理な結果を招くことになるのである。もっとも、当該資産を取得するまでに発生した借入金利息については、資産の取得に要した金額として取得費を構成するものと解される。

これを本件についてみるに、原告が主張するのは、本件土地取得後に発生した借入金利息であるから、これを右取得費に含めることはできないし、また右設備費および改良費等にも該当しない。したがって、譲渡所得算出に際して控除すべき経費にはあたらないのである。

(4) 仮りに、本件所得が譲渡所得ではなく、事業所得であるとすれば、本件係争年度分の必要経費に算入される支払利息の金額は、五二万九、三三四円である。すなわち、原告らが鳥清商事株式会社に対して、昭和三九年四月一四日に支払った利息一、六六七万二、〇〇〇円(前記項目c)のうち一、五〇八万四、〇〇〇円は昭和三六年ないし三八年分の未払利息であり、係争の昭和三九年度分の利息としては一五八万八、〇〇〇円にすぎず、これのみが同年度における本件土地譲渡について経費として控除されるべきものである。したがって、原告の負担すべき額は、その三分の一の五二万九、三三四円である。

けだし、所得税法上収入すべき金額とは、収入する権利の確定した金額をいうものと解するのを相当とするから、これに対応して収入金額を得るため必要な経費と認められるものも、またその年中に支出する義務の確定した金額をいうものと解すべきであるからである。

このように、仮りに事業所得であるとして、さらに五二万九、三三四円を控除するとしても、原告の本件土地譲渡による所得は、本件更正処分において被告が認定した総所得金額を超えるのであって、いずれにしても本件更正処分には何ら違法はないのである。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇、第二一号証、

2  原告本人

3  乙第一号証の三の成立は不知。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし一二、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし五、第五号証の一、二、第六ないし第八号証

2  甲第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第一〇号証、第一二号証の成立および第一五号証の郵便官署作成部分の成立はいずれも認める。第一五号証のその余の部分およびその余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

第一  請求原因のうち、原告が不動産売買ならびにその仲介を業とする者であるとの点を除くその余の事実については、当事者間に争いがない。

第二  そこで、抗弁について判断する。

一  総所得金額について

1  不動産所得金額

昭和三九年度分の原告の不動産所得金額が一〇二万一、八一〇円であることは、当事者間に争いがない。

2  本件土地譲渡による所得金額

(一) 収入金額

原告が、昭和三九年三月五日、訴外中西一馬、同季東硯との共有(各持分三分の一)にかかわる本件土地のうち、別紙目録記載一の土地を訴外株式会社奥村組に、同目録二記載の土地を訴外奥村機械製作株式会社に合計六、八〇五万八、〇〇〇円で売却したことは、当事者間に争いがない。したがって、右による原告の収入金額は二、二六八万六、〇〇〇円となる。

(二) 収入金額から控除されるべき金額

(1) 原告らが本件土地を四、五〇〇万円で購入したことは、当事者間に争いがない。

(2) 所得の種類

〈1〉 ところで、右本件土地譲渡による所得について、被告は譲渡所得であると主張し、原告は事業所得であると主張するので、まずこの点について判断する。

ところで、所得税の課税標準たるべき所得の種類等について規定する旧所得税法九条は、その一項八号において、資産の譲渡所得につき、「山林の伐採又は譲渡による所得及び営利を目的とする継続的行為により生じた所得を除く」と規定している。もとより、右にいう「資産」とは、動産たると不動産たるとを問わないから、本件土地の譲渡が「資産の譲渡」にあたることはいうをまたない。そこで、本件土地の譲渡による所得が譲渡所得とされるべきか否かは、右「営利を目的とする継続的行為により生じた所得」に該当するか否かにかかわっている。

ところで、所得税法が右のような所得を譲渡所得と区別し、事業所得あるいは雑所得とすべきものとしている根拠は、譲渡所得は、元来一時的かつ臨時的な資産の処分による所得であるのに対し、事業所得等は経済的利益の追求のための事業活動等により継続的に発生する所得であって、彼此性質を異にするところに存する。

右の観点よりすれば、当該所得を譲渡所得とすべきか、それとも事業所得あるいは雑所得とすべきかは、当該譲渡人の既往における資産の取引回数、数量あるいは金額の多寡、広告・宣伝等の有無、諸施設の規模、資金繰り、取引の相手方等具体的取引状況、資産の取得・管理・保有状況等の諸般の事情を総合して決すべきものである。しかして、事業所得と認められるために、右のような諸事情から、資産譲渡について営利性・継続性があり、かつ、事業としての社会的客観性を有していることが必要である。

〈2〉 そこで、これを本件所得について検討するに、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一、二、第六、第一〇、第一二号証、乙第一号証の一、第二号証、第三号証の一、第四号証の二ないし五、第八号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七ないし第九号証、第一一号証、第一三、一四号証、第一六号証、第一九号証の一ないし三、第二〇、二一号証および原告本人尋問の結果(ただし、後記のとおり採用しない部分を除く。)を総合すると、次の事実が認められる。

(イ) 原告は、白浜町でアパート経営をするかたわら、不動産取引にも手を出していた(もっとも、宅地建物取引業法に定める登録ないし知事の免許、取引主任者の設置等の手続はしていない。)。

すなわち、

〈a〉 昭和三四年末から翌昭和三五年にかけて、大阪郵政局が行なった白浜逓信保養所の土地・建物の公売に入札し、これを大阪の旅館業者に転売することを計画したが、結局落札できずに終った。

〈b〉 同じ頃、郵政省が老人ホームを建設する計画があることを聞き、和歌山県選出の参議院議員訴外前田佳都男より、白浜町内に土地を確保するように依頼され、訴外東亜港湾工業株式会社から土地を購入したが、郵政省の計画は立消えとなった。

〈c〉 同じ頃、前田佳都男の口ききで、訴外株式会社東海銀行の保養所建設、同南海電気鉄道株式会社の白浜開発について、土地購入の斡旋を試みたが、いずれも不成立に終った。

〈d〉 さらに、同年八月一日付で和歌山県知事に対し、実弟の訴外尾崎五一所有にかかる白浜町三、一八七番一の土地について、温泉堀さくの許可を申請し、温泉付土地としてこれを分譲することを企図したが、右申請は翌昭和三六年一月九日付で不許可となり、これも失敗した。

〈e〉 昭和三九年頃、訴外東亜港湾株式会社の所有する白浜町の土地約二万五、〇〇〇坪を総額二億七、〇〇〇万円余で売却する件で、前田佳都男ほか一名と共にその斡旋を試みたが、これまた成功しなかった。

(ロ) ところで本件土地は、大阪の藤原某の所有であったが、原告は、大阪府がこの入手を希望していることを聞知し、将来地価が謄貴することを見越して、昭和三六年九月一五日、訴外鳥清商事株式会社より、訴外中西一馬、同李東硯と共に購入資金四、五〇〇万円を借り受け、その頃右藤原から本件土地を買受けた。そして、昭和三八年頃には、訴外株式会社竹中工務店の子会社である訴外朝日殖産株式会社に転売を試みたが成功せず、結局鳥清商事株式会社へ話を持ち込み、前叙のとおり訴外株式会社奥村組ほか一名に譲渡した。

(ハ) 原告は、本件土地の譲渡後も引き続き白浜町付近の不動産取引を手掛けた。すなわち、

(a) 昭和四〇年には、白浜町在住の訴外吉見仁太郎から、同人所有にかかる西牟妻郡日置川町の土地三万坪の売却を依頼され、その売却に奔走したが成功しなかった。

(b) しかし、昭和四二年には、いずれも自己所有にかかる白浜町細野二、八〇四番三宅地三五坪を訴外羽根初男に、同所二、八〇四番宅地七〇坪を訴外東竹十郎、同大和初代にそれぞれ売却し、また訴外尾崎周蔵所有にかかる同所二、七八〇番二宅地一三坪を訴外尾崎喜彬に売却するにつき、その仲介をして契約を成立させるなど五件の取引を成立させ、総収入二、一四二万八、〇〇〇円をあげた。

(ニ) 原告は、昭和三九年四月三〇日、尾崎五一らと共に、本店を東京都江東区深川木場四丁目二番地に置く「東武木材興業株式会社」を設立し、自らその代表取締役に就任したほか、昭和四二、三年頃には、不動産取引を業とする「紀の国興業株式会社」を設立し、その代表取締役に就任した。

(ホ) 原告は、本件土地譲渡当時、その経営するアパートの建築資金として、訴外和歌山県商工信用組合から五〇〇万円借り入れ、さらに前叙のとおり鳥清商事株式会社から共同で、四、五〇〇万円を借り入れたほか、単独で「白浜土地分」等の名目で一〇〇万円単位の資金を数口借り入れていた。

(ヘ) 原告が、事業所得について所得税の確定申告をしたのは、昭和四二年度分が初めてであるが、昭和三九年度分の申告からは、右申告書の職業欄に「不動産業」と明記するようになった。

以上の事実を総合すれば、原告は、それによって毎年確実に利益を得ていたか否かはともかく、本件の昭和三九年当時には、すでにアパート経営のほかに、営利を目的とし、かつ反覆継続する意志をもって、継続的に不動産の売買およびその仲介を業として営んでいたものと認められる。地元選出の参議院議員の紹介により、大企業その他の土地取得に関与しようとしていたこと、いずれも不成功に終ったとはいえ、手掛けた売買・仲介の回数が相当数におよび、土地の範囲や計画の規模も比較的大きく、価額もかなり多額にのぼること、元来アパート経営という不動産賃貸業を営んでいること等にてらせば、原告は、これを事業として行なっていたものと認めるのが相当であり、本件土地の譲渡もその一環であるというべきである。

もっとも、原告は、前叙のとおり宅地建物取引業法に定める手続を一切履践しておらず、しかも、全証拠によるも、取引のための人的物的施設があるとか、あるいは宣伝・広告等を行なった事実を窺わせるに足りるものはなく、(イ)で認定した前叙の過去の取引例はいずれも不成功に終っていることは、被告主張のとおりである。

しかし、事業所得における「事業」とは、営利性・継続性があり、かつ、事業としての社会的客観性を有していれば足りるのであって、人的・物的施設や宣伝・広告等の存在あるいは法律所定の手続の履践等の事実は、右要件を判断するについて有力な基準とはなるが、常にこれらが充足されなければならないものではない。本件のように事業規模の小さい事業にあっては、人的・物的施設を特別に設けるほどの必要性もなく、また顧客を得る方法として、特別な宣伝・広告活動はしないけれども、これに代わりうる他の方法、すなわち、地元選出の国会議員の紹介を有力な手段として、各種企業とのつながりを求めることも一方法である。

また、「事業」は、当該納税者にとって本来の職業として、生計維持の唯一もしくは最大の手段であることも必要ではない。本件における(イ)の各取引例は、いずれも営利を目的としてなされたものであることは明らかである。個々的な成功・不成功を余りに重視するのは相当ではない。ちなみに、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三五、六年頃から土地売買の仲介によって、生活費の足しになる程度の収入を得ていたことが認められ、前記(イ)の各取引例のほかにも仲介をなし、その成功によって収入を得たこともあったことが推測されるのである。このようにみてくると、被告の主張する各事実は、いまだ事業性を認めるについて妨げとなるものではない。

(3) 必要経費

〈1〉 右のとおり、本件所得は事業所得と解すべきであるから、本件土地の取得に要した費用、維持管理に要した費用さらには譲渡に要した費用等本件所得を生ずべき業務について支出した費用は、必要経費として総収入額より控除されるのである。

しかして、原告主張の項目のうち、本件土地の購入金額、測量費((a)の(ロ))、登録税その他((a)の(ハ))、不動産取得税((a)の(ホ))、仲介料(高岡不動産分)((a)の(ニ))、公租公課、((c)の(ロ))、司法書士手数料((c)の(ハ))、交際接待費((c)の(イ))の二分の一、売買契約印紙代((d)の(イ))の支出がなされたことについては、当事者間に争いがなく、いずれも本件所得を生ずるについての必要経費とし認められるべきものである(もっとも、高岡不動産に対する仲介料は、本件土地の取得に際して支出されたものか、あるいは譲渡に際して支出されたものか分明ではないが、いずれにしても必要経費であることには変りがない。)。

なお、交際接待費について、被告はその支出の二分の一を必要経費と認定しているが、本件のような個人事業の交際費については、租税特別措置法による規制もなく、要は、交際や接待の相手方、理由等からみて、専ら当該業務の遂行上の必要から支出されたものと認められるから否かを基準として判断すべきものであり、その支出のいかなる部分が直接取引の成立にかかわるものと認められるかという事実認定の問題であるが、本件の場合、事業とはいっても、特に営業組織があるわけではなく、また関係帳薄が整備されていた事情も窺われない状況であり、家事関連費用との混同の可能性も大きいのであって、このような事情よりすれば、その支出の二分の一の範囲において必要経費としての算入を認めた被告の措置は、他に特段の事情も認められない本件においては、妥当なものというべきである。

ところで、右項目中(c)(この点は後に検討する。)を除くその余の支出については、原告本人尋問において、鳥清商事株式会社が、原告らに代って立て替え払いをしている、その関係書類は南海税務署へ申告の際に提出したが、紛失されてしまつたと述べている(成立に争いのない甲第二号証も同一主張の繰り返しにすぎない。)けれども、右項目の支出を証するに足りる客観的な証拠はなく、右原告本人尋問の結果もにわかに措信し難く、右支出はなかったものといわざるを得ない。

〈2〉 支払利息について

所得金額の算出上経費として認められるべき費用は、右所得の計算が歴年を単位とする期間計算によって行なわれ、収入金額も、その期間内に発生したものに限られることに対応し、同一期間内に確定した費用に限られるのである。

これを本件についてみるに、原告らが、本件土地購入のため鳥清商事株式会社から借り入れた四、五〇〇万円の利息として、昭和三九年四月一四日合計一、六六七万二、〇〇〇円を同会社に支払ったことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第八号証によれば、右利息は、昭和三六年九月一五日以降、昭和三九年四月一四日までの分を一括して支払ったものであって、昭和三九年度分の利息としては、合計一五八万八、〇〇〇円であることが認められる。そうすると、昭和三九年度分の所得金額の計算上、必要経費とし認定すべきものは右一五八万八、〇〇〇円に限られ、その余の利息は本件土地取得後に生じたものではあるが、昭和三九年度分の所得金額の計算上は考慮することができないものというほかはない。

〈3〉 以上の〈1〉〈2〉により、必要経費として認められるべきものを合計すれば、四、八六七万六、六七二円となるが、本件土地は原告らの共有にかかり、その持分は各三分の一とみるべきものであり、経費の支出についても平等とみるべきであるから、右金額に三分の一を乗ずると、原告の必要経費は、一、六二四万五、五五八円(円未満切上げ)となる。

(三) 所得金額

したがって、本件土地譲渡による所得金額は、収入金額と必要経費との差額である六四四万〇、四四二円となる。

3  まとめ

以上のとおり、昭和三九年度分の原告の総所得金額は、不動産所得金額一〇二万一、八一〇円、事業所得金額六四四万〇、四四二円の合計七四六万二、二五二円となる。

二  所得税額について

抗弁2のうち、原告は総所得金額(〈1〉)、課税総所得金額(〈3〉)、その税額(〈4〉)、納付すべき税額(〈7〉)については争っているが、その余については明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

そうすると、本件更正処分は、総所得金額を六九九万八、二五二円とし、これを基礎に税額を算出したものであり、右総所得金額は、前叙の認定金額の範囲内にあるから、本件係争の税額も、右認定金額を基礎として算出さるべき税額の範囲内にあることは明白であり、本件更正処分には、何ら違法は存しない。

なお、原告は、原告が必要経費として主張するものを控除しなければ、実質課税の原則に違反し、また二重課税になると主張するが、原告が本件土地譲渡の主体であることについては争いがないいじょう、右による所得が原告に帰属するものとして取扱われるのは当然であり、また、支払利息の大部分が、昭和三九年度分の収入に対応する費用としては認められない点についても、それは、収入と費用の対応の原則上当然のことであり、いずれも理由がない。

第三結論

以上のとおり、本件更正処分には何ら違法は存しないから、原告の本訴請求は理由なきに帰する。よって、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新月寛 裁判官大藤敏および裁判官森輝雄は転任のため署名押印ができない。裁判長裁判官 新月寛)

目録

一 大阪市阿倍野区文の里一丁目一一番一

宅地   二二六・六三坪

二 同所  一一番二

宅地   二二七・〇三坪

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